目次
イントロと整理
新NISAが始まりましたね。近年では信託報酬の劇的な引き下げもあり、個人投資家の多くがインデックス投信に投資するようになり、特にS&P500とオルカン(MSCI_ACWI)が人気です。どちらがいいか迷っている人も多いでしょう。
時々両方人気だから半分ずつ買えば良いという素朴な意見も見ますが、オルカンの6割以上は米国株なので、魚料理と肉料理を半分ずつ頼んでいるというよりはトンカツ定食とトンカツを半分ずつ頼んでバランスが取れていると言っているようなもので、そんなわけはありません。実際ポートフォリオの8割以上が米国株になっています。
なので分散させようという思惑ではなく、米国株にどれくらいティルトすべきか?市場動向についてどういう見立てをしているのかという観点で捉えるべきだと思います。
さて、市場参加者は将来の成長性も加味して投資しているので、市場参加者のviewが正しくて適切なpricingがされていると思うならオルカンなわけですが、テック企業最強!米国の覇権は終わらねぇ!市場参加者はアメリカを過小評価しているという人もいるでしょう。あるいは逆に今までアメリカが上がりすぎたから、もうすでに割高で今後はアメリカ以外の国が伸びていくのではないか?という見方もあるでしょう。今の時価総額つまりマーケットの意見と自分自身のviewを混ぜてアセットアロケーションを最適化する手法がタイトルにあるBlack Litterman modelです。
注意と言い訳
特定の商品を推奨する意図はありません。私は金融工学を専攻してないのでそれほど詳しくないです。間違っていたらごめんなさい。(論破してみろとは思わないので)ミスがあっても優しく教えてほしい
テック企業最強ならNASDAQ100だろ!むしろGAFAだけでいいとか債券はどうした?みたいな話はややこしくなるのでやりません。
ブラックリッターマンモデルの雑解説
簡単に言うと次のような感じです。
①分散共分散行列を適切に求める。リスク許容度を設定する。リターンはいらない。
②よくある期待効用最大化問題を今の時価総額ウェイトが最適化の解になるように、各資産のリターンを逆に求める(これが市場参加者の総意として得られる均衡的なリターン)
③自分自身が持つviewと不確実性パラメーターを決める(例えば米株は日本株を2%アウトパフォームするみたいな)
④ベイズ的な計算をしてリターンと分散共分散行列を更新する
⑤更新されたリターンと分散共分散行列を用いて再度、期待効用最大化問題を解く
CAPMがベースになってます。②はいわゆる逆問題みたいな話です。
今回の分析デザインとパラメーター設定
資産数が多いと面倒なので、簡単のため、米国株とそれ以外の国という2資産でやります。適当にネットでVOOやVXUSなどでググった感じ、
相関を0.7または0.9の2通り、米国株、非米国のvolを各々15%、16%、今の時価総額ウェイトは米国60%、非米国40%としました。
ブラックリッターマンモデルでは色々とパラメーターを設定するのですが、その辺はネットでデファクトスタンダード的に使われてる値
(\delta=2.5 \tau=0.05 \Omega=0.0008517381)を採用
また、viewとして米国が-3%~+3%まで0.6%刻みで非米国をアウトパフォームする
11通りのシナリオを考えて、AAに与える影響を見てみます。また、ウェイトは合計100%になるように調整しますが、レバレッジや空売りも許容してそのまま出します(元のプログラムが解析解なので。。。)
結果
さて簡単に結果を確認しましょう。表形式とグラフで表示してますが中身は同じです。
表の上側(グラフの左側)はアメリカが負けそうと予想していて、
表の下側(グラフの右側)はアメリカが勝つと予想してる感じです。
相関係数が0.9の場合米国株が2%程度、相関係数が0.7の場合、3%程度アウトパフォームする見立てなら米国にフルインベストメント(つまりオルカンではなくS&P500のみを買う)のが正当化されそうです。相関係数によって水準が違うのは、相関が低い場合は分散効果が働くので、米国株以外のウェイトを増やすメリットが大きいからです。
逆に米国が3%以上アンダーパフォームする場合は米国のウェイトは、20%以下に抑えたほうが良さそうです。
真ん中がオルカンと同じようなウェイトで右に行くほどS&P500のウェイトを上げて、
左に行くほど日本、欧州、新興国などアメリカ以外の国のウェイトを高くしたほうがいいよということです。
パラメーター設定に関して
さて、簡単に分析してみましたが、実は途中で書いた\Omega(や\tau)というパラメーターを変えると結果がかなり変わります。\Omegaは不確実性を表すパラメーターで、例えば\Omega=100みたいな設定にするとviewを一切考慮せずに時価総額ウェイトから得られる均衡的なリターンだけで決めるみたいな形になり、小さい値にするとよりviewを重視するようになります。ほかにもパラメーターはあるし、分散共分散行列において、個別資産のボラティリティはともかく、アセットクラス間の相関は歴史的にみると、けっこう変化するのでその辺はどう設定するか難しいです。
個人的には相関は例えば証券会社等が発行するレポート等の数値を入れてみて結果にどのくらいの差がでるか検証する。\Omegaなどのハイパーパラメーターは例えば相関0のケース、市場ウェイトが50:50のケース、1:99のケースなどいくつか仮想的に設定した資産の場合、肌感覚としてこういう結果が妥当だろうというウェイトが人それぞれあると思うので、何パターンか試してみて妥当な水準感を確かめてみるといいかもしれません。
参考文献等
ブラックリッターマンについては、Attilio Meucci氏が多くの論文を書いているので発展的な内容について学びたい人は頑張ってみてください。
(残念ながら日本語の参考書でブラックリッターマンを扱ってるのはあまりないし証券アナリストでも習わないけど、世の中の人はどうやって学んでるのだろうか?)
Black-Litterman Allocation — PyPortfolioOpt 1.5.4 documentation
ブラック・リッターマンモデルによる資産配分を解説してみる(Pythonによる実行例つき) #Python - Qiita